only one

新しい自分



湖の奥深く、小さな透明のカプセルがユラユラと漂っている。


小さなその空間に体を丸めて眠る少女。


艶やかな黒髪が俯く彼女の顔を隠す。


「アル、これで良かったのか?」


肩の上にちょこんと座ってティルはアルに話しかけた。


「良いも悪いも彼女は楽器の力を借りなくてもいいほどの真の乙女だったんだ。
必要ないだろ?」


「けど、アルはどうなるんだよ。
遥夢の側で音を奏でるためのお前は用なしか?
用なしなのか?」


「そうじゃない。
遥夢に仕えることに変わりはないんだ。
ただ、楽器に姿を変えなくて良くなっただけだ。」


「意味わかんねぇぞ。
ちゃんと説明しろよ!
バカヤロー。」


「ティル、私にまでバカヤローが聞こえますよ。」


くすくすと笑いながら話すアル。

瞼が閉じたまま、どんなに持ち上げようとしても開かない。

指先まで凍ったようにピクリとも動かせない体。
だけどやっぱり怖いって感じないのは心があたたかいからで、2人の会話に耳を傾けた。


「笑ってないで教えろ!バカヤロー。」


ティルったらやっぱりバカヤローって言わなきゃ話せないのね。


「お楽しみは最後まで取って置くものです。」


「話せよ。バカヤロー。」


アルの肩の上で駄々っ子みたいにジタバタと足を動かしながら話すティルにアルは笑うだけで、そんなアルの余裕のある態度にティルは益々顔を赤く染めて怒っていた。


2人のやりとりは私の頭に直接流れ込んでくる音声と映像でまるで私も同じ場所にいるように鮮明に感じることが出来る。

だけど彼らのすぐ側にいないことも感じ取ることが出来た。


私は1人。


ユラユラと揺れる。


真の乙女になるためにと言われてからの苦痛。


熱の塊が腹部に埋め込まれるような痛みを感じて私は意識を手放した。


けれど、その熱は私を守ってくれていると感じる。


凍りついたように動かない体。


本当に凍っているのかもしれない。


だけど、体内はあたたかい。


きっとアルから受け取った熱が私をあたためてくれてるんだって思った。







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