白き旋律
「先生超上手いー」
「じゃあ、次、幻想即興曲弾いて下さい。」

 1曲弾き終えたところで、松下玲の周りには続々と生徒が集まって、リクエストの嵐になった。どうやら彼女はあの1曲で生徒の緊張感を和らげたらしい。
 次々にリクエストされた曲を奏でていく彼女を見つめながら、紀紗も弾けない曲とかないんだろうなと、そんなことばかり、とりとめもなく考えていた。
 冷静に考え直してみると、やたら思考の中に『紀紗』が出てきていることを知る。紀紗だったらこうするとか、紀紗と先生の違いはここなんじゃないか、とか。

「…どんだけ浸食されてんだ、俺。」
「悠夜?」
「あー…なんでもない。」
「?」

 理子が不思議そうな表情を浮かべながらこちらを見つめていた。その微妙な気まずさを打ち破ってくれたのは授業終了のチャイムだった。

「今日はとりあえずここまで。私は主に皆さんの課題曲の練習の手伝いをします。今日は第一音楽室でしたが、次の授業からは第二音楽室で行いますから。それでは皆さん、また次の授業に。」
「悠夜、次の授業行きましょう。」
「おう。」
「あ!ちょっと待ってくれるかな?柏木悠夜くん。」
「はい…?」

 唐突に呼び止められて、クラスの視線が悠夜に集まって気まずくなる。最初に指名されたこともそうだが、特に接点と呼べるようなものは今までになかったはずだ。…少なくとも、覚えている限りでは。

「放課後、ちょっと確認したいことがあります。特別棟の玄関に来てくれますか?」
「はぁ…?」
「それじゃあ放課後に。」

 曖昧な返事をイエスと受け取ったらしい彼女は、笑顔を残して、音楽室を出た。
 頭の中は疑問でいっぱいだった。どうやら次の授業は手につきそうもない。何故か新任教師に目を付けられた。現状、それだけが唯一わかることだ。
< 7 / 7 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:6

この作品の感想を3つまで選択できます。

  • 処理中にエラーが発生したためひとこと感想を投票できません。
  • 投票する

この作家の他の作品

二人の歩幅が揃うまで
夢海/著

総文字数/154,983

恋愛(純愛)182ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
最初はただ、美味しいものが食べたくて それは少しずつ、癒しの時間になっていって 気付けばただの店員さん、とは言えなくなった 「今日のおすすめのパスタ、ですよね?」 ふにゃりと笑う顔が可愛い年下大学生くんは 私の4年、後ろを歩いている ひどく疲れた顔も、少しだけ明るい顔も 段々小さな変化に気付けるようになって 返してくれる笑顔に、胸の奥がとくんと鳴った 「今日もすっごく美味しい。癒される~。」 ほんのり赤みがさした頬を膨らませながら 食事を楽しむ年上社会人さんは 4年先を歩いている 二人の歩幅が揃うまで 「年下ワンコを飼ってます」 「俺の彼女が一番可愛い!」 の綾乃と健人が出会って 二人が自然に隣にいるようになるまでのお話 2024.10.11 完結しました
10回目のキスの仕方
夢海/著

総文字数/199,108

恋愛(純愛)234ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
誰かを好きになるということは 嬉しくて、幸せで、笑顔になって。 でも、それだけではなくて。 恥ずかしくて、痛くて、悲しくて、辛くて。 そんな想いを繰り返しながら それでも手をのばしていく。 「すきって言うの、ずっと…怖かった。」 恋愛に臆病な女子大生・美海(20) 「気の利いたこと、言えないけど、それでいい?」 無表情かつ寡黙な大学生・圭介(21) 恋愛は、きっと『好き』だけではどうにもならないけれど とてつもなく純粋な『好き』から始まるのが恋であると 相手がただ傍にいるだけで満たされて、 愛しく思えたときには愛になると あなたと、君と、 出会えた今なら、信じられる。 執筆開始 2015.1.4 2015.6.29 完結しました。 2016.4.12 オススメ作品掲載 ありがとうございます! オススメ作品掲載記念 「温泉旅行」 2016.4.16
ファンは恋をしないのです
夢海/著

総文字数/86,346

恋愛(ラブコメ)87ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
「ほ…本物…!?」 「あ、はい。声優、やってます。」 ハマっているアプリのアイドル声優が集うライブを見て、【推し】ではないユニットのリーダーに目を奪われてしまった里依(りい) そんなことは生まれて初めてで、ライブの余韻が抜けないままぼんやりといつも通り、こっそりとしたオタクとして生活していたはずなのに… 「似てる人だな…とは、その…確かに思いました…けど。」 「さすがに本人だとは思わないですよね。」 本物に出会い、イベントでもないのに会話をしてしまうことがあるなんて…! 声優さんの邪魔をしてはいけない。 キャラクターと声優さんを同一視してもいけない。 ましてや、個人的な感情としての『好き』なんて、抱いてはいけない。 それは、ファンとしてあるまじき思いで、行動。 【ファンは恋をしないのです】 奥手アラサーオタク×二次元アイドルの中の人 「でも声優は、恋をしますよ?」 2025.7.10完結

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop