フェイク
イライラしながら駅の階段を下りて、電車を待つ
相変わらず煩いホームから逃げるように、わたしはバッグからiPodを取り出し、音楽を聴く事にした
適当にかけて、下を向いて歩き出す
「……っあ」
誰かとすれ違う、と腕をつかまれる
突然動きを止められた事で、そのまま体が後ろに傾く
慌てて体勢を立て直すと、腕を掴んでいるのはスーツを着たサラリーマン
「……なんすか?」
「昨日、○○駅でぶつかりませんでしたか?」
昨日、昨日…あぁそーいえばぶつかった気がする
けどなんでわたしはそれだけでこうやって腕を掴まれているのだろう
ちゃんと謝ったはずだ、骨でも折れて金をよこせと言うのか
とりあえず頭を縦に振ると、男は少しだけ慌てる
「って悪い、突然すぎたな」
「いや、別に…で用はなんでしょうか」
「昨日これ落とさなかったかな。君が行った後下に落ちてたんだけど」
そう言って男は胸ポケットからピアスを取り出した
赤いダイヤのピアスは、確かにわたしがいつもつけているモノにそっくり
左耳に触れると、ついてるハズのそれはついていない
「わたしのみたいです」
「やっぱりね、声かけたんだけど聞こえなかったみたいでさ」
「ありがとうございます。大切なモノなんで…」