たとえばそんな静寂の中で

巻き込まれる

そのまま眠りについてしまおうかと考えたとき、ドアがコツコツとノックされた。

「房枝」

音を立てないように静かにノブが回って、おねえちゃんがあたしの部屋に入ってきた
あたしはねっころがったまま、首だけ動かした。

「房枝」

おねえちゃんはあたしのベッドに腰を下ろして、少しだけ乱れたフレアスカートの裾のしわを伸ばし体ごとあたしのほうに向き直った。

「怒っているの?」

おねえちゃんは心底解らないといったように小首をかしげてあたしに尋ねた。

「怒ってるに決まってるじゃない。大体、あたしもうワンルームマンション決めてたんだよ。不動産屋にどうやって説明しろってのよ」

「大丈夫」

おねえちゃんは静かに微笑んだ。その横顔の質感は陶器でできた最高級のビスクドールにそっくりだ。

「不動産屋さんがこれぞって物件を紹介してくださったから。房枝が契約した物件と代えてくれたの。だから何も心配しなくっていいのよ」

「お父様とお母様は?おねえちゃんが出てくって言っただけで、お母様大反対だったじゃない?」

「それも大丈夫よ」

「あの状態から、お母様をどうやって丸め込んだのよ」

「丸め込んだって、ずいぶん人聞きの悪いこと言うのね。お母様だって闇雲に反対してるわけじゃない。説得したらわかってくださったわ」

「あたしは?あたし、1人暮らしがしたかったんだよ!おねえちゃんと2人で暮らすなら結局この家と同じじゃない?」

「私が房枝と暮らしたいのはちゃんと理由があるのよ」

「理由ね。聞こうじゃない」
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