たとえばそんな静寂の中で
第一章

疎外

「房枝ちゃん。ちょっと」

お母様があたしを呼んだ。

両親が和室の一枚板の座卓に座って深刻な表情を浮かべていた。

あたしは両親のそんな表情は意に介さない。もう、手はずはすっかり整っている。

「お母さんから話を聞いた」

お父様は片膝をたてて貧乏ゆすりを繰り返して、重い座卓はは地震のように細かい振動に震えていた。

「この家を出て行きたいのか?」
「そんな大げさなものじゃなくて、大学生活も残り1年じゃない?就職も決まったし、今を逃したらお嫁に行くときまでお父様とお母様のところでぬくぬくさせてもらって・・。あたしは自立したいの」
「じゃあ、聞くが」

お父様は足を組み替えて胡坐をかいた。生き物のように地団駄を踏む左足が重ねられた右足の重みに耐えかねてしぶしぶと息を潜めた。


「何で事前に相談しなかった?私たちが旅行に行った間に何で全てを1人で決めたんだ?」
「お父様」

お母様がお父様の右足に手を置きながら言った。

あたしのほうは見ようともしない。
いつものことだ。

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