マジックストーン

 笑いこける神崎先輩に若干むっとはしたけど、静かに隣の石に腰掛けた。

「優衣ちゃん今日も可愛いね」

 にこっと必殺王子様スマイルを繰り出す神崎先輩。

 ほ、ほら、彼氏さんと一緒にお祭りに来てる浴衣の美人なお姉さんがこっち見てトローンとしてますよっ!

 ひぃっ!

 浴衣の美人なお姉さん! そんなに私を睨まないでくださいぃぃぃいいっ!

「か、神崎先輩っ」

 あまりの怖さに助けを求めれば、さらにいっそうキラキラの笑顔から、

「優衣ちゃんやっぱり足痛い?」

 と心配そうな顔つきで――え?

 視界からいなくなったと思ったら、足の圧迫感と痛みから解放されて神崎先輩がしゃがんで下駄を脱がしたのを知った。

「……私、言いましたっけ?」

 どこから取り出したのか、消毒液と絆創膏を器用に靴擦れした箇所に塗って張りつける神崎先輩。

「ん? 言ってないよお〜。だけど、最初から歩きにくそうだし、途中から俺の浴衣の裾握ってたから、ね?」

 私、神崎先輩の浴衣の裾握ってた、の?

「神崎先輩っ……その……」

「痛みが引くまでちょっと休んでよっか。 ――あっ。優衣ちゃん甘いもの平気だったよね? 安っぽくて良ければ、あそこにクレープがあるから食べる?」

 ね? と必殺技で私に頷かせた神崎先輩は「すぐ戻ってくるから」と足早にクレープ屋さんに向かった。

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