【短編】雪うさぎ
雅=みやび=
それは幼い頃の懐かしい記憶

私のことを「うさぎ」とよんだ男の子の記憶

なぜ彼が私をそう呼んでいたのかは忘れてしまったけれど…

冷たい冬の夜でも寒さを感じさせなかった彼の小さな手の温もりは、今もはっきり覚えている。

彼と一緒なら、不思議と寒さも不安も感じなかった。



世界を無色に染め上げたその日の雪は、その年の一番の降雪だったらしい。


臨月の母が、産気づき、父と病院へ向かったのはその日の夕方だった。

降りしきる雪で大渋滞の中、父はタクシーを捨て母を背負って病院へ駆け込んだそうだ。

隣の家に預けられていた私は、おばさんから無事生まれたのが妹だったと知って飛び跳ねて喜んだのを覚えている。


私が5才の2月のことだ。



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