誠実なる白き人
まやかしの証



指輪を交わそう。
密約の証に。



左の人差し指には、鈍く光る指輪がある。
その指輪には、彼の方の憎しみと狂おしいほどの想い。
私に向けられた、彼の方の総て。

彼の方は、北方を治める領主でありながら、この国の水を操るお方でもあった。北方は雪深い。そして太古の氷河もある。
この国の水は、北方からの水路で補われる。

北方よりも更に北。この大陸の一番の大国は、北方の豊富な鉱物と豊かな水源を欲していた。
だが、国には北方以外の水源は無い。
国の半分以上は砂漠、雨も降らぬ枯渇した地。
長い歴史の殆どは、戦いに血塗れている。そして、戦いの反動は砂漠を作り上げた。


彼の方は北方を愛していた、国は愛さずとも。
北方の美しい湖、雪原、氷河・・・その総てが彼の方自身。
そしてその想いが惨劇を呼ぶ。


北方は反乱を起こした。国が枯渇するのを厭わず、水路を破壊し北方は独立を望んだ。


北の大国は、北方の独立を喜んだ。
相互戦力として・・・古龍を甦らせ、古城に眠りし悪しき魂を呼び戻し、大国は南の我が国を滅ぼした。


彼の方は、嘆き悲しまれた。そのような破滅は望んでいない。
ただ、私は北方を守りたかった、と。






私の指輪は、彼の方が北方に還られる時に下さったものだ。
豪奢な墓はいらぬ。私は北方に還るのだと。
彼の方が雪原に向かって歩いて行かれるのを、私は見送る事しか出来なかった。
彼の方が還られた日には必ず、北方総てに花が咲く。
国となり、豊かな生活をする人々の心総てに彼の方がいる。




密約を交わそう、貴方と私で。
貴方にこの指輪を託そう。
愛しい私の友よ、仲間よ。
私の心はここにある。



北方にまた、花が咲く。



END

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