Cold Phantom [前編]


(…助けて。)


「え?」
俺は不意にすっとんきょうな声をあげた。
いきなり自分が呼ばれたような気がして意味も無く辺りを見回した。
だが、俺の視線は心当たりのあるものを捉えてくれなかった。
「気のせいか?」
俺は鮮やかな夕暮れの緩やかなくだり坂を見下ろした。
「どした?」
一緒に下校していたたけが俺に言った。
「いや、何でもない。」
俺はそう言って、頭を人差し指でをかきながらたけに向き直った。
(気のせい…だよな。)
実際に呼ばれたかと言われると返答に困りそうなほど曖昧な物だったし、何より俺にしか聞こえなかったようなたけの反応に、空耳以外の答えを見出す事が出来なかった。
そしてもう一つ…
(何て、言われたんだろ?)
それすら解らなかった。
呼ばれた気がしただけ…ただ、それだけだった。
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