男性不妊と宣告されて~不妊治療闘想記~



「今の家賃と同じぐらいの価格で家が買えます!」


「もちろんペット飼育可!!」


「新築モデルルーム見学会開催中」


魅惑的なコピーにリュウジが落ちない訳がない。


必死に、子供モードへ思考が戻らないよう、私達はモデルルーム巡りを始める。


勤続2年、地元ではない二人にはちょっと厳しい条件。


だけど年下のリュウジも周りよりも自分の城を早く持つことに憧れていたし、なにより二人なんだから大丈夫!そう言い聞かせる。


どこに言っても聞かれる言葉。


「お子さんはまだなんですか?」


最初は言っていた。


「まだなんですよ」


それに対して……


作り方知らないんじゃない?


教えてやろうか?


そう言うオヤジの多い事!


リュウジの目の前でも平気でそんな言葉を吐く相手に、いつしか本当の事を言うようになった。


「うちは出来ないんですよ」


と。


それでも「良い病院あるわよ」なんて言ってくるオバサマもいて……その時にはきっちり言い返す。


「私が原因じゃないので……」


大体はこれで引き下がってくれる。


それでも更に病院を勧めてくる相手には


「男性が原因の場合は良い産婦人科じゃダメなんですよ。良い泌尿器科じゃないと」


ここまで言うと知らなかった現実に驚くのかもう何も言われる事はない。


何も知らないくせに言わないで。


……ココロの中でだけ毒を吐き、笑顔で接する。


考えてみればいくら最近増えていると言っても、ネット以外で極度の男性不妊の人間に私はまだ会った事すらない。


気晴らしのモデルルーム巡りは楽しかったけれど……どの営業マンもこの部屋は将来子供部屋に、という説明が入るのでそれだけがちょっと疲れた私だった。




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