西の狼
始まりの唄
辺りに魔法による轟音が鳴り響く中に、巨大な大剣を担いだ男が部下と共に岩に座っていた。男は黒い短髪に白い鎧を着ていた。背中のマントには、一振りの剣を構えた鎧兜を着た女神が描かれている。

「…さて…」

男は立ち上がった。それに合わせて部下達も立ち上がった。

「…行くか…!」

男は大剣を担いだまま地面を蹴った。部下達も次々と地面を蹴って戦場の真ん中に突入した。






時は聖歴742年。ここアルセリア大陸には、巨大な三つの大国が存在する。東北を支配する『ダルゼイス帝国』、南を支配する『ガルハイド共和国』、西を支配する『マルゼリア連邦』。その三つの大国は、40年の長きに渡って戦争を繰り返していた。そして、今…この三つの大国が唯一領土としていない地域…北西地域には、一つの国がある。その国の名は『サラドリア公国』。国としては比較的小さい国だが、海に面した位置にあるため、度々三大国から狙われて来た。しかしサラドリア公国は10年以上も三大国の侵略を防いで来た。それは、公国の抱える軍隊が大陸最強と呼ばれるからこそ成し得た平和だといえる。公園には、王族親衛隊と公国軍の他に、国内の4大貴族と呼ばれる貴族達が抱える私兵団が存在する。公国は豊富な魔法鉱石が採掘出来ることもあって、軍の魔法使い達は極めて優秀な者達ばかりだ。この世界の兵士達は、その全てが例外無く魔法使いでもある。しかしそんな世界においても、公国の兵士達は極めて優秀なのだ。この物語は、そんな公国の兵士達の記録である。





一ヶ月前


「…ったくよぉ…今日は息子の誕生日だってのに…帝国も何だってこんな日に攻めて来るかねぇ…」

男は長い廊下を歩きながら愚痴を漏らした。その脇には二人の女と男が並んで歩いていた。女は紅い腰まで伸びた髪に、髪と同じ色の金の装飾がされた鎧を着ている。その腰には長剣が提げられている。
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