怪盗ブログ



後ろから差し出されたにんじんをもぎ取り、振り返る。


振り返った先にあった擦り傷だらけの十星の顔は、やっぱり少し痛々しい。

昨晩と違って、血が滲んでいないだけマシだけれど。


「ありがとう。恩に着る。だから帰って」

「え、えええ」


引きつった笑顔で、小声でまくし立てた。


「来たばっかりなのに……」


どうしてこんなにのん気なのだろう。

リビングに、ほんの数メートル離れた場所に大貴が寝ているのに。

見つかって面倒なことになるのはこの男なのに。

何故あたしばかりが焦っているのか。


するとあたしの考えを察したのか、「ああ」と笑った。


「王子様なら心配いらないよ。ちょっと薬飲ませたから、騒がなければあと数時間は平気だと思う」


「なんなのあんた……」


怒りのような、呆れのような、ほっとしたような、消化しがたい気持ちになる。

十星の胸で大泣きした翌日にも感じたあれだ。

とにかく焦る気持ちは少し落ちつき、余裕を取り戻した。


「じゃあなおさら!今のうちにはーやーく帰って!!」

「えー?」

「えーじゃない!」

「……叫ぶよ」


……?

叫ぶ???


鳩が豆鉄砲をくらったような……顔をしているかどうかはわからないけれど、理解できていないあたしの顔を見てニヤッと笑った。

その不敵な笑みで、その意味に気付いた。


「性格わる……」


『騒がなければ起きない』大貴を『騒いで起こす』よ、ってことだ。


あたしにやましいことは何もないのだから、大貴が起きて困るのは十星のはず。

……なのだけれど。


十星の顔を見ていると、なんだかとばっちりを受けそうな気がしてくる。


「……用事は何ですか」


それを済ましてさっさと帰ってもらうしかない。

< 242 / 263 >

この作品をシェア

pagetop