みかん白書~描きかけの私の描きかけの恋~
「べ、別にっ…」

そう答えて、キョロキョロとまわりを見回すウチ。

黙って上履きに履き替えてはる男子や、友達とのおしゃべりに夢中な女子がいてはるだけで、一葉以外には、ウチのほうを見ているヒトは一人もおらへん。

「なーんや。ボク、てっきり美佳の忘れ物ばしたのを思い出したのかと思ったったい」

そう言って微笑むと下駄箱をあとに、廊下を歩きはじめる彼女。


“今やっ!”


ウチは、彼女の視線が自分からそれたスキに、素早く乱暴にグシャっと恋文を握り締めると、ポケットにつっこんで走り出した。

「一葉、ゴメン。ウチ、トイレに寄ってくさかい、先に教室に行ってや」

「なんね? また、ねーちゃんに朝のトイレを占領されとぉ?」

追い抜き、走っていくウチの背中に、彼女が声をかけてくる。

「そ、そーやねんっ。緊急事態っ。ヤバイ、もう漏れそうやっ」

振り向かんと、そない答えたんは友達である彼女にウソをついた後ろめたさもあってんけど、とにもかくにも早う恋文を開封したいと気が急(せ)いとったせいでもある。
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