Bitter
朝、鋭い日差しで目覚めると、腕にかかっていた頭の重みが消えていた。
ひとあくびして、青ざめた。
『‥‥文子‥‥?』
行かせてしまった。
悪魔の巣へ、行かせてしまったのだ。
テーブルの上には置き手紙。
《いってきます。パン焼いといたから食べてね。
シチューとか、昨日一緒に食べようと思ってたのがたくさんあるから、好きなだけ食べていいよ。
指輪、ありがとう。きれいなペリドット。大切にするね。
文子》
起こしたら止められるのをわかってたんだろう。
『‥‥‥‥文子‥‥‥‥』
大丈夫かよ、あいつ‥‥。
あの痛々しい笑顔が頭から離れない。
文子が何かされてる様子を思い浮べてはうなされる。
パンをシチューにつけて食べたが、今日は食物がどこに入ったのかよくわからない。
時計をみる。
昼が近い。
施設に帰らなきゃな‥またあの子達が殴られてるかもしれない。
でも‥今日は、今日だけはごめん。
あとで代わりにいくらでも殴られる。
今日だけは、文子が帰ってくるまでここにいさせてくれ。
だって、胸騒ぎが止まらないんだ。
————あの時の俺に、一言誰かが言ってくれればよかったのに。
———結末を知る、誰かが‥‥。
———『走れ』と、ただ一言でも。