Bitter
俺は言い返す力もなく座り込んだ。
『でも‥‥俺‥‥。』
すると奈美さんもしゃがみこむ。
『‥ねぇ。抱き締めてやんなよ。
あの子が一番欲しいものは、それだよ。』
『‥‥‥‥』
『今も、これからも‥‥』
俺は顔を上げることができなかった。
意に反してこぼれてくる大粒の涙を見られたくなかったから。
『‥‥わかってんだ。すべき事くらい‥‥‥。
だけど、すげー‥怖くて‥‥。
いつか‥この一歩を後悔する日がくるんじゃないかとか‥‥。』
奈美さんの手が、俺の頭をなでた。
『でもさ、愛してるんでしょ?』
『ん……。』
『あんたからも、文子からもね、全身からそれが伝わってくるのよ。』
俺は初めて会った女の前で、情けないことにしばらく泣き続けた。
文子のことになるとつい涙腺がゆるんでしまう。
* * *
『ほら!少年!』
奈美さんが、それまでなでていた俺の頭をひっぱたく。
『いって』
『もう泣き止んでるでしょ?これ、文子の住所と地図。』
『………………。』
『私もね、夕飯のしたくがあるの。』
彼女はそう言って、今日会った中で一番やさしい顔で、俺の背中をたたいた。