キテレポ 08-09
No.27

加賀谷美智子(31)カガヤミチコ

またの名を『鼻くそ大先生』。
先生は鼻くその研究に余念がない。
・鼻くその主成分はタンパク質である。
そんな事、小学生の頃から知っていた。
・食べることでほんの少しのパワーが出る。
・空腹時に味わう鼻くそは想像以上に塩っ辛い。
・口に放り込んでから2秒や3秒では、鼻くそ本来の味は分からない。10秒以上舌の上で転がし、最低5回は噛む。(噛めば噛むほど良い。) 甘みが出てくるのはその後の話だ。
・秋の取れたての鼻くそは腰を抜かすほど旨い。とりわけ魚沼さんの鼻くそは(鼻が曲がるほど臭いが)驚くほど味わい深い。
・収穫してから4、5日寝かせた鼻くそも捨てがたい。甲乙つけがたい。
・秋鼻くそは嫁に食わすな。
・目くそが鼻くそを笑うのはおかしい。
・鼻くそが目くそを笑うのは正しい。
どれもこれも夏休みの自由研究で発表した内容だ。バカにするな。
先生は鼻くその事を『鼻くそ』などと、蔑んだ言い方は絶対にしない。敬意を表して『鼻味噌』『アンチョ鼻』『キャ鼻ア』などと呼ぶ。家庭が貧しかった訳ではない。ただその味に惚れ込んでしまっただけの事だ。だからおやつは専ら鼻くそだった。修学旅行に持っていくおやつでさえ、鼻くそだった。今ではおやつを通り越して、シチューの隠し味として使ったり、サラダに和えたり、ソテーに添えたりしている。筋金入りの鼻くそグルメだ。バカにするな。
誰もが先生を変人扱いする。誰もが鼻くそを厄介払いする。かく言う私もそうだった。先生の話を聞くまでは。
「あなたも、あなたの友達も、あなたの恋人も、みんな一度は鼻味噌に手を染めた口よ。荒唐無稽?だったらどうしてあなたは、鼻味噌がしょっぱいという事実を知っているのかしら?」
ドキッとした。何も言い返せなかった。結局のところ我々も同じ鼻の狢なのだ。
それ以降、私は先生の肩を持つようになり、先生のカバンを持つようになり、先生の右手となり、先生の鼻をほじくるのが日課となった。今はこの仕事1本で(指1本で)飯を食っている。勿論、鼻くそも食っている。バカにするな。
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