キテレポ 08-09
No.36

大和志音(35)ヤマトシオン

違和感を覚える男。
運動会や遠足の前日には必ず足に違和感を覚える。
「明日無理だ…。」
そんな風なことを口にして免れる。
そうやって彼は小学生時代の大イベントをことごとくキャンセルしてきた。
当日はだいたい寝て過ごした。寝て、いいとも見て、寝て、食って、また寝て。みんなが汗水垂らして頑張っている中、彼だけは布団にへばり付いた。

中学生の頃には彼の違和感はほとんど全身に転移した。
「なんかだるい…。」
そんな様なことを言って、週休5日制を勝手に導入した。たまに学校に行くと、かなりの確率でからまれた。
「何見てんだよ。」
そんな風にいちゃもんをつけられるのが常だった。
余談だが、不良は見られる事を好まない。そのくせ、後ろの髪の毛だけをこれ見よがしに伸ばす。この引っかけ問題には十分注意してほしい。学校に行ってしっかり勉強しないと、その辺の事が全然分からないから(彼のように)まんまと引っかかってしまう。気を付けよう。

中学2年生の時の事である。その日、彼はよりによって1個下の奴に喧嘩を売られた。分かっているとは思うが、この時期の1個下は20代や30代のそれとは雲泥の差がある。12歳臼歯が生えているか否かは、親知らずが生えているか否かとは訳が違う。彼にもプライドってもんがある。なめられちゃ困る。
「やってやるよ。地獄見せてやるよ。」
そんな風に意気込む彼を見て、親友の高橋君は思わず笑みを浮かべた。友達として純粋に嬉しかったのだ。こんな風に張り切る彼を見るのは本当に久し振りだったから。こんな風にシャドーボクシングをして体を温め、臨戦態勢を整えている彼を見るのは生まれて初めてだったから。
決戦の地(体育館裏)に向かうまでの間、彼は軽快なリズムで体を動かし続けた。(セコンドに付く予定の)高橋君は彼の肩を揉み続けた。しかしどうしたことだろう。この男、さっきから一歩も動いていない。ただただ腰から上だけを動かしているだけなのだ…。


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