色恋花火
「そういえば…チャラそうな男と楽しそうに歩いてたぜ」


「は……?」



気が散りながらも、ずっとテレビの画面にくぎづけだった…いや、そうしようと必死だった俺の目が、その一言で信じられないものでも見たかのように見開かれ、兄貴の方を向く。



でも

ここで取り乱すなんて格好悪い所を見せたら

この、外面だけは天使の大魔王にそれをネタに一生揺すられると思い、コントローラを握る手の震えを懸命に隠しながら俺は冷静を装った。


「か…香里奈のわけねーじゃん。人違いだろ」

「間違えるわけないだろ?あんな可愛い子そういるもんじゃないぞ」


後ろにいた彼女が兄貴の足を思い切り蹴ったことなど、この際見なかった事にして頭を整理しよう。

じゃなきゃ

パンクする。



何ですぐに帰らなかったんだよ。

ナンパに捕まったんだとしても簡単についていくような女じゃねーだろ、お前は…。


「…それくらい、楽しみにしてたって事か…」


声になったかならないかの微妙な音量で呟く俺。


よく出来た俺の女は控えめで、ワガママなんか言ったりしないし

俺が右を向けと言えば右を向くような…今時珍しいひたむきさを持っていて

とにかく馬鹿みたいに一途だ。


その香里奈が

他の男についていくという事は相当な事件だった。



あいつが俺以外といるところなんて想像つかないし

俺があいつ以外の女といるとこだって想像つかない。


今までだって

これからだって


ずっとそうだ。




「……ちっ」



俺はゲームの電源を落とすのも忘れてコントローラーを放り投げ、もうすっかりと夜の帳が降りた道を駅前に向かって走り出したのだった。

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