サラリーマン讃歌


「……俺の事が好きなのか、クミちゃんは?」

「当たり前じゃない。そうじゃないんだったら、私もあんなに悩まなかったわよ」

「……そうなんだ」

「はっきりと聞きましたから、この耳で。『私はサクくんが大好きだ』って」

「……そうか」

複雑な気持ちだった。

素直に嬉しい気持ちと、だからこそ俺を振った空見子の気持ちを考えると手放しには喜べなかった。

俺が彼女に近付けば近付くほど、彼女を苦しめてしまう。

かと言って、全ての根源である河野を告発したところで、それもまた逆に彼女を苦しめてしまう。

気持ちの中では河野に対して殺意にも近い憎悪があり、今直ぐにでも殴り付け、張り倒してやりたいのだが……

俺が今為すべき行動は何なのか?

俺が今彼女にしてあげられる事は何なのか?

正直、どうしていいのか判らなかった。

俺の心の中の葛藤が顔に出てしまっていたのか、二人は心配そうに俺の顔を見詰めていた。

「大丈夫ですか?」

「大丈夫。何とかなるさ……いや、何とかするよ、必ず!」

心の中の葛藤には一切触れず、自分自身に言い聞かすように、そして若い二人を安心させるように力強い言葉を吐いた。

< 119 / 202 >

この作品をシェア

pagetop