サラリーマン讃歌

~居酒屋《赤提灯》~

その日の仕事を終え、俺は高嶋を誘いだして会社近くのいつもの居酒屋に来ていた。

「めずらしいじゃん、直哉から誘ってくるなんて」

「……うん……まあな……」

珍しくあまり飲めもしない酒をチビチビ飲みながら、何を話すでもなくただ漠然と座っていた。

高嶋は先程からそんな俺の様子を気にするでもなく、最近あった出来事を上機嫌で話していた。

「この間さ、業務の和田がな、『たまには私も飲みに誘ってくださいよぉ』って言ってきてさ。でな……」

彼は相槌すら打とうとしない俺を無視して一方的に、かれこれ三十分以上は一人でしゃべっている。

「……そしたら、アイツ、何て言ったと思う?『今日は帰りたくないの』だって。マジうぜえ」

「……うん」

相変わらず気のない返事を続ける俺を見て、流石に高嶋も苦笑していた。

「……待ってるんだけど」

「はっ?」

「はっ、じゃねえよ。お前が喋りだすのを待ってるんだけど」

思考がほぼ停止している今日の俺には、彼の言葉の意味がなかなか理解出来なかった。

「何を?」

「お前が俺を誘った理由だよ。何か俺に言いたいことがあって誘ったんだろ?」

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