サラリーマン讃歌
そして、久保のその言葉自体も一時の寂しさから出た言葉であると俺は感じた。

その事を久保に伝えると、「わかりました。僕も早く一人前になって、逆に呼んでもらえるように頑張ります」と納得してくれた。

そんな彼から半月程前に突然電話があった。

「お久しぶりです。桜井さん」

「おお、久しぶりだな、久保。どうした、何かあったか?」

俺達が辞めて以来連絡をとったのは数回ほどで、久保から連絡してくるのは初めてだった。

「ええ。俺、来月に主任に昇格することになりました」

「マジで!スゲェな、お前!やるじゃん!」

久保が頑張って実績をあげ、認められたのが自分の事の様に嬉しかった。

俺達の様な訪販会社での昇格はほぼ実績のみの評価であった。

年齢、在籍年数などは一切関係がない完全実力主義だった。

「ありがとうございます。全て桜井さんを始め、教えて頂いた方々のおかげです」

「相変わらず謙虚なやつだな、お前も。主任になったのはお前の実力だよ」

相変わらずの低姿勢振りに、思わず笑みが零れた。

「いえ。貴重な時間を割いて教えてくれた方々のおかげです。昔、同じ事を言ってましたよ、桜井さんが」

「……そうだっけ」


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