サラリーマン讃歌
終わりの合図を告げる座長の大きな声が稽古場に響き渡った。

公演間近という事もあってか、今日の稽古はかなりハードなものだったが、不思議と気分は清々しかった。

スポーツをした後の様な爽やかな汗と、心地良い疲労感が残っていた。

「お疲れ様」

亜理砂がタオルで汗を拭きながら近付いてくる。

亜理砂とはよくマンツーマンで稽古をするという事もあってか、かなり親しい仲になっていた。

たまに二人で飲みに行ったり、カラオケ等に行ったりもした。

「お疲れさん」

「この後、何か予定ある?」

「ないよ。帰って寝るだけ」

既に午後十時を過ぎていたし、明日も朝から稽古があるので真っ直ぐ家に帰るつもりだった。

「じゃ、ちょっと付き合ってくれない」

「オジサンの体力を奪う気か?」

稽古に付き合わされると思った俺は、苦笑いしながら軽く嫌味を吐いた。

「違うよ。飲みに行きたいだけ」

「飲みに?別にいいけど……大丈夫なのか?」

亜理砂の体を心配しつつ、自分自身の体をも心配していた。

「私は大丈夫。若いから」

「すいませんね、オジサンで」

「じゃ、用意してくるね」

そう言って亜理砂は帰り支度をする為に、更衣室へと向かった。

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