サラリーマン讃歌
携帯を渡した裏方の子からも、連絡があったという知らせはなかった。

……見付けられなかったのだ。

岡本が空見子から聞いた言葉自体が偽りだったのかもしれない……

俺は流れ出てこようとする涙を、必死に堪えた。

岡本に自分の居場所を言わなかったり、梓にすら会いに来ようとしなかった空見子の気持ちを考えると、おそらくこれが最後のチャンスだっただろう。

空見子と再会出来る最後のチャンスを俺は逃してしまったのだ……

俺は舞台袖で一人、悲しみに暮れ、天を仰いでいた。

「直哉、出番だよ」

俺の背後から亜理砂が遠慮がちに声をかけてくる。

俺は上を向いたまま、目に溜まった涙を二本の指で摘む様にして拭うと、

「ありがとう」

と、亜理砂に一言礼を述べた。

俺は最後のシーンを演じる為、舞台に向かって一歩踏み出した……

……運命の女神は…………俺には微笑んでくれなかった。

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