純愛バトラー
「こちらが、絵理様の離れになります」

 離れといっても普通の平屋くらいの大きさがある。
 ……私室がまるまる別棟かよ。
 金持ちの家は色々とおかしい。

「絵理様。佐伯です。先ほどお話いたしました草薙を連れて参りました」

「ご苦労。通せ」

 佐伯さんがインターホンに向かって言うと、短い返事が聞こえた。

「絵理様、失礼いたします」

 そう言って佐伯さんが部屋のドアを開けると、そこには机に向かい、本と格闘している一人の少女がいた。

 椅子から立ち上がってこちらを振り返り、ふわりと微笑む。

 白い素肌に肩の少し上で切り揃えられた黒絹の髪。

 整った鼻梁ときれいなアーチを描く柳の眉。

 一際目を引くのは強い意志力を湛えた黒曜の双眸(そうぼう)。

 清純。潔癖。こんな言葉を擬人化して、意志力という名の瞳を填め込んだら目の前の少女になりそうだった。
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