嫌いな男 嫌いな女

だって明日から旅行だよ。

緊張しっぱなしなんだけど! 男の子とふたりって、大丈夫かな。
……行って、本当にいいのかな……なんて。

バカなことまで考えてきちゃう。


なんで、なんで、私は……巽が好きなんだろう。
今まで、あいつには、ろくなことをされた記憶が無い。いっつもいっつも、泣いてばかりだっていうのに。

あんなことされたって、好きだって思ってしまうんだから、頭おかしくなっているのかも。
好きだから、悲しいなんて、おかしいよ。好きだから、嬉しい、なんて思ったことないのにね。

ふたりでしょーもない話をして、笑い合うなんて。
巽となんかじゃ想像もできないのに。


こんな気持ちで大樹くんと旅行なんて……やっぱり、ダメな気がする。
けど、今更引けない……。

大樹くんも大事だから。
そして、一歩を踏み出して、また傷つくかもしれないことが、怖いから。





「姉ちゃんってほんとに友達と遊びに行くの?」

「……な」


部屋で準備をしていると、小声で隆太が私に告げる。
なんでこいつはこんなに勘がいいの。


「どーせ彼氏とかだろ」

「ちょ、違うって……!」

「お土産買ってきてくれるなら黙っててもいいけど」


違うって言っているのに、全く信じてないんだから。
いや、まあ図星だからそれ以上なにも言えないんだけど!

「ったく」

「だれと? 巽?」

「……なんで巽と旅行なんて行かなきゃなんないのよ」

「なーんだ、面白くない」


面白くないってどういう意味よ!
口を尖らせてつまらなさそうに部屋を出て行く隆太に怒りを覚える。
変に大人っぽくなって! っていうか口の悪さとか愛想のなさとか、あいつどんどん巽に似てきてるんじゃないの? やめてほしいんだけど。

ひとりでブツブツ文句を言いながら荷物をカバンに詰めていった。
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