嫌いな男 嫌いな女
「落ちないでよ」
「落ちねえよ」
バカ、という言葉は口にせずに飲み込んだ。
部屋に入って美咲の方を見ると、すでに窓は閉じられている。
……なんか、変な感じだ。むずむずして気持ちが悪い。
手にあるのは美咲からのホワイトデーのお菓子。
その中から一つ手にして口の中に放り込んだ。
甘くてちょっとだけ塩気のあるキャラメル。
普通に甘いっつーの。塩なんて、気休め程度じゃねえか。
でも、俺の知っているキャラメルよりもすげえーやわらかくて、口の中でぶわーっと溶けていってすぐになくなった。
わざわざ、渚に聞いてまで俺へのキャラメル。
そして、渚に相談してまで選んだ、美咲のマシュマロ。
今美咲は、俺のあげたマシュマロを食べて、どう思っているんだろう。
言葉に出来ない気持ちで、布団にダイブして枕で自分の顔を隠した。
……嬉しいと、少なからず思ってしまっている。
多分、今までこんな関係じゃなかったから、だからだ。ちょっと、調子が狂っているだけなんだ。
寝て目が覚めれば、きっと全部忘れてなくなる。
今の俺の気持ちも、脳裏に焼き付いたように消えない、美咲の笑顔も。
キャラメルみたいに早く溶けてなくなれ、こんな気持ち。
俺はあいつが嫌いなはずで、あいつも俺を嫌いなはず。
きっと今日だけだ。お互いに今日だけ。
明日になればきっとまたケンカをするだろう。
でもそのほうがいいかもしれない。
だってこんな関係俺たちじゃないみたいだろ。
なんか恥ずかしいから……どうしていいかわかんねーから。
いつもの関係がいい。