加納欄のホワイトデー シリーズ9
加納欄のホワイトデー シリーズ9
ただ今の時刻、午後3時30分。
そして、あたしの体温38度9分。
 このまま、水銀が上がれば、死ぬな……。
あたしは、ふと思った。
そして、こっそり計った体温計を引き出しに戻す。
 調子が悪いとは思ってたけど。
 雨の中、聞き込みばかりさせるからぁ。
「欄ちゃん、今日暇?」
今日も元気な祥子先輩が、話しかけてきた。
「暇ですけど、早く帰ろうとは思ってますけど」
「じゃ、決まりね」
 いや、ちょっと、待ってください。
「何が”決まり”なんですか?」
「ンフフ」
祥子先輩が、ニヤリと笑った。
「なんなんですか?暇でも、今日は、早く帰りたいんですけど」
「暇なんでしょ?付き合いなさいよ」
あたしは、熱のせいか、祥子先輩が、あたしの話しをちゃんと聞いてくれているのか、分からなくなっていた。
暇だけど、帰りたいと、ちゃんと伝わっているのかさえ、よくわからなかった。
自分の身体から、魂が抜けている感覚で、1歩後ろから自分を眺めているかのようだった。
「久しぶりに飲みに行かない?」
え?
飲み?
「す、すみませ~ん。今日はぁ……」
「何よ」
「た、体調がぁ……」
「いい若いもんが、なぁに言ってんのよ」
「日にちをかえて……」
「今日よっ!」
祥子先輩の口調が強まった。
「今日が合わせやすいのよ。タカさん非番でしょ。大山さんも早く上がれれば、皆で飲めるじゃない」
え!
「皆で飲むんですか?」
「たまにはいいじゃない。最近飲んでなかったでしょ?」
「あ~、そう、ですねぇ……」
あたしは、目線をわざとそらした。
「ダメよ。ちゃんと話さないと」
え?
「あんた最近、大山さんのこと避けてない?記憶戻ったのに、どうしたのよ」
……出さないように、してたけど、態度に出てたか。
「あ、いえ」
「……まさか」
「え?」
「あたし達のこと、まだ疑ってるんじゃないでしょうね」
「…………」
あたしが、黙ってしまったので、祥子先輩が、引いてしまった。


< 1 / 14 >

この作品をシェア

pagetop