Night Walker
「立ち入った事をお聞きしますが、お二人はご夫婦なのですか?」


舞の言葉に玲子は飲みかけていた紅茶を吹き出した。


「玲子ちゃん、行儀悪い……」


津那魅が、玲子を横目で見て言うのと、


「違っ〜う〜っ! そんな気持ち悪い事言わないでよ〜っう」


と言うのがほぼ同時で、


「気持ち悪い……」


玲子の言い草に少なからずもショックを受けた津那魅はじとんと目をすがめて玲子を見た。


「あんまりな言い方ですよね。玲子ちゃん。私に何か恨みでも?」

「は? 無いよ。恨みは無いけどぉ〜。間違えられるのはやだ!」


でないと呪われる〜と冗談混じりで言う玲子を、いつになく冷たい眼差しでいちべつした津那魅は、浅く息を吐いて左手首に目線を落とした。


「あっ……ごめん。言い過ぎた」


津那魅の様子に、言葉の暴力を彼に投げ付けた事を悟った玲子は、謝るとしゅんと肩を落とした。

二人のやり取りを交互に見ていた舞は、どうしていいのか解らず俯くと、


「ごめんなさい! 私が要らぬ事をお聞きしてしまったが為に、お二人に嫌な思いをさせてしまいました」


最後にはか細い声で、ごめんなさいと呟いて、紅茶のカッブにポトリと涙の粒を落とした。

慌てたのが津那魅と玲子。

ぽろぽろと涙をこぼす舞に、二人は色々な言葉を屈指して、泣き止むよう尽力を尽くしたのだった。





しゃくり上げていた声もようやく止んで津那魅は舞に昨夜の経緯を説明した。

その前に、津那魅と玲子は親戚同士で、玲子は此処の事務員として働いており、津那魅は彼女の雇い主だと説明している。


「そうだったのですか……」


と、舞は二人の関係に納得して、津那魅との出会いや、此処に来た経緯にうなづいた。


「覚えていないのかい?」


津那魅の言葉に、舞はこくんとうなづく。


「昨夜、自宅の私の部屋で就寝して以降、ここで目覚める迄何も覚えていません」

「確かに……。正気で無い事は伺い知れた。舞ちゃん」


舞は改めて津那魅に名を呼ばれ、真摯に見つめられて、胸が高鳴った。


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