Night Walker
それは、仁をすり抜けて、女へと向けられた笑みだった。


「私は、そこの犬っころの様にはいきませんよ。主に迷惑をかけたく無ければ、この場は引きなさい」

「誰かと思えば……。人間に加担する、裏切り者か……」


女の言い草に、津那魅が肩を竦める。


「裏切り者もなにも……私は、最初からあなた方の、味方では有りませんから……勘違いなさらないで頂きたい」


女が、ふっと馬鹿にしたように笑う。


「あたしは、『Night Walker』の裏切り者と言ったのよ」

「はい。私もそのつもりで言いました。これでも、私は人間の端くれですから……」


NightWalkerの筈の津那魅が、己を人間だと言う。

その根拠は何処から来るものなのだろうか。

女が、津那魅の言葉に美麗な眉をしかめる。

津那魅の言い分が、さっぱり解らなかった為だ。

女の反応に津那魅が『くすり』と、笑い声を漏らし、薄い笑みを頬に刻む。

女の態度以上に辛辣で嘲りを含んだ津那魅の微笑に、彼女の眉尻が上がった。


「私が何か等、どうだっていいのでは無いですか」

「あら、そう来るのね。」


津那魅の呆気ない『どうでもいい』発言に、女が切り返した答えは。


「そうねぇ、死に行く者への手向けとして、貴方の事くらい聴いてあげようかとも、思ったんだけど……いいわ」


女が、右手をギュッと握る。

目付きが、眼光が、仁と向き合った時と、明らかに違う。

本気モード

と、言う所だろうか。


津那魅の顔から、微笑みが消えた。

それは、女の爪が一瞬で再生した所を見たせいか、はたまた彼も、本気で闘う気になったのか。


「おやおや、流石、吸血鬼。『切り落とす』だけでは駄目そうですねぇ……」


表情を全て削ぎ落とした津那魅の顔は美麗な分、精工に出来た人形のようで。

その場にいた者は、不思議と恐怖を覚えた。

カタカタと、微かに何かが当たる音がする。

不協和音を奏で続けるその音が、何処から来る物なのかと、女はいぶかしんで、ふと気付く。

長く伸びた爪同士が僅かに触れて。

震える右手が、そこにあった。


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