DELERTER
屍の陰

そこには闇に紛れて3羽の烏が居ると言う……


ズルズルと腰履きしたスラックスの裾が引きずられる。そんな履き方をしているものだから、裾がすり切れてもうボロボロだ。

パタンパタンとスリッパの様に突っ掛けただけの上履きは踵部分がペチャンコだった。

そういやぁ粋が何度となく嫌ぁな目でこの格好見てたっけ?

他人事のように思いながら、少し重い鉄扉を押し開ける。

既に切れた着信をリダイヤル。すると3秒程でプツリと言う音と共に低めの声が応答した。


『はい』
「…蒼か。さっき悪かったな」

教室に居たから出られなかったんだ。

そう弁解すると電話の相手は『いいや』と短く答え、
『さっきシドに電話したのは烏京だ』
と付け足した。


烏京と聞いた涼は思わず「うげっ」と奇声を上げ、苦虫を潰した様な顔をする。

『…代わるか?』
「や、遠慮『シードくーんっ』……」

遠慮すると言い終わる前に、蒼の声とは全く別物の第三者がそれを遮った。ピクピクと痙攣するこめかみを押さえつつ、涼は耳から少し携帯を遠ざける。

『酷いなあ。仲良くしよーやぁ。俺ら仕事上のパートナーなんやしぃ』

「……うるせえ黙れこのバ関西人」

『ぬぁっ!!今関西馬鹿にしよったな!!呪われんで!!ビリケンさんに!!』

電話向こうの相手に見えないと知って居ながら、べっと舌を出すと、手からスルリと携帯が抜けた。
何事かとそちらを見れば、先程まで教室に居た粋が隣りで携帯に耳を当てている。

「黒部はんでっか」
『おーっ!サクくんやぁっ!!何や授業終わったんか』
「…あんさんらは相変わらず学校行かへんのですなあ…」

やれやれと呆れた様に息を吐くと、粋は涼に視線をやった。

「東烏が出たのんか?」
「ああ、蒼なら呼べばそのバ関西人と変わんだろ」

涼の言う通り、携帯越しに蒼を呼べば本人が出た。…背後で未だにギャンギャン騒ぐ烏京の声が響いて居るが、聞かなかった事にする。


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