切恋バスタイム(短編集)
 ――あれから二年。淡い恋心も思い出になって、僕の隣には今、共に歩く人が居る。いつか幸せにしてあげるつもりだと言ったら、「まだ早いよ!」と言いながらも、頬を染めて笑ってくれた。あいつに似てお節介な所もあるけど、涙脆くて優しい子だ。



「みっくん、このお店良いねぇ。私気に入っちゃった!」

「そう?良かった。」

「料理は勿論おいしいけど、音楽が凄く良いんだもん!クラシックって落ち着くね!!」



 彼女がそう言った、その時だった――僕にとって大切な曲が、流れ出したのは。



「……あ、『エリーゼのために』だ!私達が初めて会った時、みっくんが音楽室で弾いてたよね?楽譜を忘れて取りに行ったら、凄く綺麗な演奏してる人が居て……友達もすっごく誉めてたよね!
それに、ベートーヴェンが好きな女性(ひと)のために作った曲なんでしょ?私もこの曲、好きだなぁ。」



 ――過去と今とが重なる。あいつとの最後の思い出は、この子との最初の思い出。違うのは、あいつには伝わらなかったけど、この子は曲の意味を知っていたということ。



「……うん。この曲は、凄く大切なんだ。」
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