不思議な喫茶店
彼のオーダーの品を作っていると、2人組の客が入って来た。

2人はサラリーマンのようで、上司がどうのと話しながらカウンターに座った。

「課長が」

「いやいや、部長が」

「そう。そこなんだよぉ。」

「マスター、コーヒー2つね」

そう言うと腕を組んで話し込んでしまった。

コーヒーとミルクティーを出した後、2人の客の話に相槌を打っていた。

「ねっ、マスター」

と時々話を振られるが何の話やらピンと来ない。

こんな時は、笑って頷くのが無難だ。

そうすると2人はまた話に夢中になってしまった。





しばらくしてから、喪服の彼にふと目をやるといつの間にかいなくなっていた。

テーブルに行くと空になったコーヒーカップと手付かずのミルクティー、2杯分のお代があった。

思わず首を傾げる。

妙だ。

コーヒーとミルクティーを彼の前に並べて出したはずが、ミルクティーが向かい側に置いてあった。

あたかも、そこに誰かが座っていたかのように。

ふむ。

実に妙だ。

店内を振り返ってみたが、やはり彼の姿はない。

気付かなかったのかと、白髪頭を掻いた。




結局、この日他に客は入らなかった。
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