5分100円 コインランドリー
1.新緑のコインランドリー
瑛子は、真新しい乾燥機を覗き込んだ。
「きれいだ・・・。」
なんだかうれしい。

洗濯乾燥機4台、乾燥機4台、大型2台。
そのうち、まだ壊れていない乾燥機2台を残して、すべて新しくした。
普通のコインランドリーよりやや狭い店内だ。
住宅地の中にひっそりと佇む。
裏には、ちょっとした森があり、夏にはさわやかな風が吹く。

先週までは、白木蓮の花が満開で、とてもさわやかな甘い香りが漂っていた。
ピンク色の木蓮の方が、香りは無いが色が気に入っている。
ちょっぴり、お店にも飾っていた。

今週は桜が満開だった。
しかし、

昨日の風ですかっり散ってしまった。

ちょっぴり、寂しい・・・。

あれから。5年回目の春になる・・・。


瑛子は、仕事場が東京都内だった為、祖父母とは離れて生活していた。

それなりの収入。
それなりの仕事。
それなりの私生活。
何不自由ない生活。

一変した。

祖父母が、交通事故で亡くなったのだ。
急なことに驚き、動揺した。
おととい、会ったばかりだった。

私が、祖父母の家から帰る時、ニッコリ微笑みながらいつものように言った言葉。

「きよつけて、帰るんだよ。またね。」

祖父母の最後の言葉だった。
 
私が、幼くして、両親は離婚し、母方の祖父母と母と4人で暮らしていた。
私が3歳の時に母は、病で亡くなった。

それからは、祖父母がわたしの面倒を見てくれていた。
二人とも、とてもやさしかった。
とても、大切に育ててくれた。


1週間以上泣いた。ずっと泣き続けてた。
悲しくて、寂しくて、死ぬほど、孤独だった。
泣いても泣いても気分は優れかった。

すぐに、仕事は辞めた。
事務職だったので、会社では居ても居なくても同じ状況だった。
無責任かもしれなかったが、それ以上に後悔の方が大きかった。
なぜ、祖父母の元に居なかったのか。


30歳の時だった。
祖父母の死をきっかけに、東京で生活をしていた瑛子はここへ戻ってきた。

一人ぼっちに、なった。

瑛子に残されたのは、ちょっとの遺産とコインランドリー。

祖父母が大切にしていた、このコインランドリーを継ぐことを決心した。







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