僕と平安貴族の五日間

with 殿, in 居酒屋



 落ち着いた店内の雰囲気が、僕は気に入っている。


「えと、とりあえず、生中2つ。」


 あや、居酒屋特有の威勢のいい「はい」が聞こえない。


 僕だって居酒屋バイターだ。


 これでは、だめだ。


「あ、手羽先、2本と、枝豆。


お好み焼きにー、ホッケ。」


 ん?うんともすんとも言わない店員。


 僕は、メニューの上から、店員のほうをのぞいた。


「ぇ?」


 店員は女の子で、タコのように顔を真っ赤に染めて、


 口をパクパクさせながら、


 なんと殿のことをガン見している。


 殿は、浴衣独特の色気を、


 貴族パワーでさらにバージョンアップさせ、


 メニューを物珍しそうに眺めていた。


 すると、おもむろに顔をあげた殿はものすごい笑顔で、


「タケル。これを食べたいぞ。」


 と、写真を指差した。


 僕は、どれどれと、殿の持っているメニューを見ようとした。


 しかし、僕よりも素早く、真赤な店員は、


「和風、いちごミルフィーユパフェですね!!!!!


かしこましました!!!!」


 と、大変元気のよろしい発声で、マッハで出て行った。


 なんだあれ。


 僕は殿に聞いてみた。


「殿ってさ、モテたでしょ?」


 殿は小首をかしげた。


「はて、もてるとは?」


「おなごによく言寄られなかった?」


 すると、殿はえもいえぬような微笑みを浮かべて、


「そのようなことを聞くのか、タケル。


フフ、野暮よの。」


 と、言い放った。


 やーぼー。


 野暮らしい。


 そういうのは。


 さっきの店員は顔面ボヤ騒ぎかと錯覚するほど、


 アツかったわけだけど、


 野暮って!!


 ったく、いい身分だぜ。


 いや、実際、彼、貴族ですけど。







 そういや、僕が言ってたやつ、


 頼んであるのかな。


 ビールですら、来なそうだけど。


 僕は恐る恐る、呼び出しボタンを押した。


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