戦国遊戯
慶次は何も言わず、2人を連れて藤吉郎の部屋へと急いだ。幸い、夜で場内が薄暗いこともあり、2人について詮索されることなく、中をうろつくことができた。
幸村も政宗も、慶次がどこへ向かっているのか、言ってはいなかったものの、おおよその見当は付いていたので、何も言わず、ただ黙って後について行った。

慶次がある部屋の前で立ち止まる。幸村と政宗も、足を止めた。

「藤吉郎、いるか?」

慶次が襖の前から、部屋の中に呼びかけた。
だが、返事はない。

「藤吉郎?いないのか?」

再度、慶次が中へ呼びかけたその時、襖がバシッと開かれた。そこには、複雑そうな表情を浮かべた藤吉郎の姿があった。

「…入れ」

それだけを言うと、藤吉郎は3人を部屋の中へと入れた。きょろきょろと、人に見られていないのを確認すると、そっと襖を閉めた。

「なんとなく、お前らが来た理由はわかる」

藤吉郎の言葉に、3人は何も言わず、ただ、黙って座っていた。

「…玲子のことじゃないのか?」

聞かれて、幸村と政宗の顔がはっとする。

「玲子はどこにいる!」

幸村が詰め寄ろうとするが、慶次がそれを制止した。

「門のところで雨宿りをしていた娘とは、やはり玲子か」

慶次に聞かれて、藤吉郎はこくりと頷いた。

「玲子は雨の中、門のところでうずくまっていた。びしょ濡れだったよ」

藤吉郎は、思い出すかの様に、ゆっくりと玲子が部屋を出るまでのことを話した。幸村と政宗は、藤吉郎の言葉に愕然とした。

「では、玲子は!?」

幸村が焦った表情で聞くと、藤吉郎は首を横にふった。

「すまない。どうしても、わしも気になったので、城の中をくまなく探してみたのだが…どこにも玲子の姿がないんだ」

深いため息をつく藤吉郎に、3人は顔を見合わせた。

「まさか、城の外に出たってのか?」

慶次がきくと、藤吉郎はまた、首を横に振る。

「いや、それはないだろう。門番にも聞いてみたからな」

「そうか…」

慶次が呟くと、政宗がはっとした表情で聞いてきた。

「おい…まさかと思うが、地下牢ってことはないだろうな?」

聞かれて、藤吉郎ははっとした表情を浮かべた。
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