-恐怖夜話-

結局。


昨日買ったばかりのその冷蔵庫は、元のリサイクルショップで引き取って貰う事になった。


店からの帰り際、母がそれとなく昨日の店員さんに『冷蔵庫の元の持ち主』のことを尋ねてみたけど、満面の営業スマイルで『それは、分かりかねます』と、にこやかに一蹴されてしまい、詳しいことは分からなかった。


ただ。


今にして思えば、冷蔵庫を買うとき、確かにこの店員さんはこう言ったのだ。


『小さいお子さんがいた家庭で使われていたんでしょう』と。


小さい子供が『いる家庭』ではなく、『いた家庭』。


それは、今は子供がいないと言うことではないのか?


それとも、ただの言葉の綾?


あのフックは、本当に『子供の悪戯防止用』だったのだろうか?


私に、確かめる術はない。


だけど、あの『だしてよ、おかあさん』と言う子供の声。


どこか哀しい響きを持ったあの声を、しばらくは忘れられそうになかった。



   <了>


< 52 / 358 >

この作品をシェア

pagetop