-恐怖夜話-
結局。
昨日買ったばかりのその冷蔵庫は、元のリサイクルショップで引き取って貰う事になった。
店からの帰り際、母がそれとなく昨日の店員さんに『冷蔵庫の元の持ち主』のことを尋ねてみたけど、満面の営業スマイルで『それは、分かりかねます』と、にこやかに一蹴されてしまい、詳しいことは分からなかった。
ただ。
今にして思えば、冷蔵庫を買うとき、確かにこの店員さんはこう言ったのだ。
『小さいお子さんがいた家庭で使われていたんでしょう』と。
小さい子供が『いる家庭』ではなく、『いた家庭』。
それは、今は子供がいないと言うことではないのか?
それとも、ただの言葉の綾?
あのフックは、本当に『子供の悪戯防止用』だったのだろうか?
私に、確かめる術はない。
だけど、あの『だしてよ、おかあさん』と言う子供の声。
どこか哀しい響きを持ったあの声を、しばらくは忘れられそうになかった。
<了>