明日への扉
お互い何も話さず、黙々と雑巾を洗い終えた。






「…チョコは?」



急に篤史の低い声が、耳に届く。





「…ないよ、そんなもの。」



「去年の約束は?」



「約束なんて、した覚えない。」





ホントは、ちゃんと覚えてる。


私のチョコを食べたいって、言ってくれたこと。



でもその時、千佳からチョコを受け取ったシーンが、よみがえってきた。






「……いいじゃん… また、たくさんもらったんでしよ? …それ食べれば…いいじゃん!!」




静かな廊下に、私の声が響いた。




「お前… 何でこの日になると、キレるんだよ。」



低い、穏やかな篤史の声が、余計にイラつく。



余裕な態度が、ムカついてくる。




「別に、キレてないし。そんな必要ないし。それに、アンタにお前なんて、呼ばれる筋合いない!!」




思わずポケットに手を突っ込むと、何かが指に触れた。



それは、自分用にとっておいた、私の手作りチョコ。



入ってた2個を握りしめて取出し、蛇口の側に『バンッ』と置いた。




そしてバケツを掴んで走り出した。





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