蜜愛
晴汰



『おい、晴汰。遅れるぞ、早く支度していけ』

父さんに声をかけられて僕ははっと我にかえり慌てて、広げていた自由帳をしまう。


僕が母さんを亡くしたあの夏。

夏休みの宿題用にと持っていった、海をスケッチするための真っ白な下書き用自由帳は

突然の引越

突然の転校

そして突然の宿題からの解放で忘れ去られていた。


そのまま、荷物に紛れこんなに長いこと開くこともしなかったこの紙に


僕は母さんと再婚し海で“殺した”あのおじさんの『遺書』を見つけてしまった。


あれからもう何年も経って、僕は高校生にもなるというのに。


どうして今更、これを出してめくってしまったかわからない。

しかもこんな、学校に行く間際に。

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