きみの視る幻想(ゆめ)
一章

【01】

世界が崩壊しようがすまいが、

たまらなく朝は同じ顔でやってきて、俺を目覚めさせる。

安普請な素泊まり宿しかない世の中じゃ、

朝陽を完璧に遮ってくれるカーテンなんてものを

期待するほうが間違っているのだ。

特に俺のような、家族もいなけりゃ定住もしていない男は、

いつでも背中を痛めるためにある堅いパイプベットと

しみったれな布団にくるまって眠るしかない。

素泊まり宿があることにすら感謝だ。

まだ前の世界をなんとはなしにひきずっている

中央の都市は別なのかもしれないが、

世界が終わりを告げてからこっち宿がない町も珍しくはない。

すべての人が自分を生かすことに精一杯で、

他人の世話までみる余裕などないからだ。

食うために一生懸命なばかりに争いあっては毎日、誰かが死ぬはめになっている。

くだらないが、しかたのないことだ。

俺はもう、暖かく柔らかなベッドやら、

朝陽を遮断してくれる分厚いカーテンの存在など

思い出せもしない。
 
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