ヴァンパイアに、死の花束を
しばらく山の中を走ったのち、レイが車を止め泣き崩れるわたしを振り返った。

「……どうして?どうして穂高を置いてきたの!?レイ、どうしてよ!!」

レイの胸を思い切り遠慮なしに両手で叩く。

彼はそれを表情も変えず、防御することもしない。

何度目かに振り下ろされたわたしの腕を、レイはピシリと受け取った。

「!?」

レイはわたしの右手の指から流れる血を物憂げに見つめると、色気を漂わせる唇から舌を零れさせ、わたしの血を舐めとった。

「……レ…」

そして苦しげに唇を歪ませ、わたしの指から瞳を逸らした。

ハンカチを取り出し、わたしの指にきゅっときつく巻く。

「穂高みたいに癒しの力がないからこれしかできないけど…」

「…レイ、どうしたの?」

そう言いたくなるほど、レイはいつもと違った。

なんだか、わたしを見る瞳の色が、違う。

「竜華雅はあれで、純血のヴァンパイアを凌ぐほどの力を持っている。今は、容易に近付けない。穂高は殺される心配はないから大丈夫だよ、神音ちゃん。今は、君の命を護ることが先決だったんだ。…わかってくれるかな?」

レイはわたしの質問には答えなかった。

でもすぐに明るくいつものように笑うと、わたしの頭をぽんと叩いた。

「穂高は必ず助ける。今は雪音ちゃんが先だ。奴らの追ってをまくためにちょっと遠回りするけど時間には間に合うから、心配しないで」

少し、レイの笑顔が痛々しく見えたのは、夕陽に照り返されたせいだったのか。

穂高を思い出して、またぽろりと涙が頬を伝った。




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