ヴァンパイアに、死の花束を
「きゃぁあああ!!」

その悲鳴が聴こえた瞬間、わたしはドキリとして前方を目を凝らして見つめた。

神社の前に連なる紅い鳥居の真ん中の空間で、綺羅は黒づくめの男に羽交い絞めにされ、ナイフを首に突きたてられていた。

レイはその5メートルほど前に立って二人を見つめている。

「……綺羅!!!」

駆け寄ろうとしたわたしに気づいた綺羅が大粒の涙を流しながら叫んだ。

「神音!!来ちゃだめ~!こいつに近づくと金縛りにあっちゃうのぉ!!」

言われてはっとした。

レイはただ立っていたわけではない、そう気づいたのはレイの体が小刻みに震え、表情がとても苦しそうに強張っていたからだ。

「…神音…ちゃん…綺羅の言う通り…こいつに近づきすぎると…体が…麻痺して…しま…う」

レイが振り返ることもなく、苦しげに言葉を吐いた。

「綺羅…レイ…!どうすればいいの…!?」

立ち止ったまま何もできない自分がもどかしくて苛立たしげに叫んだわたしの横で、シオがレイを見ながら低い声を発した。

「あれは金縛りでも、麻痺でもありません。恐らく目には見えない吸血鬼の波動があの男の体から鎖のように伸びてレイス様の体を縛っているはずです。…わずかに、波動の“軋み”が、聴こえるのです」

…波動の鎖……!!

「じゃ、じゃあ、それを切れば……!」

「…さすが、シオ。気づいたようだね」

その時、綺羅を羽交い絞めにしている男が瞳だけ動かしてこちらを見た。

初めて男の顔をはっきり見たわたしは、男が思っていたより若く、20歳ほどの体格のしっかりした男で、目鼻立ちのはっきりした外国人との混血のようだと気づいた。







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