あの頃へのラブレター
十六通目…サボテンの花
紗耶香、あれから一年になりますね。

僕の誕生日プレゼントに貰ったサボテンは、まだ花を咲かせてません。

白い花が咲くんだよと言ってくれましたが、一年前と同じ姿で机の上に居ます。

紗耶香との初めての出逢いは、ちょっと普通ではありませんでした。

その事がずっと尾を引いてか、君はなかなか本当の心を打ち明けてはくれませんでしたね。

それとも、これは僕の思い過ごしですか?

「私は汚れた女だから…貴方を幸福にはして上げられない。」

今でもその言葉を忘れません。

君は汚れた女と言いました。

確かに、人によっては、君の職業を知ったらそう思うかも知れません。

親にも、親友にも知られたくない仕事……

けれど、それを言うならば、僕は君のお客でした。

その僕が、紗耶香のすべてを承知した上で、君の全てを受け入れようと……

一度は、君もその事を喜んでくれたのに、ある日突然、目の前から去ってしまいました。

初めて祝ってくれた僕の誕生日の翌日に……

君は、あの店も辞めてました。

店の人とかに、いろいろ聞いたのですが、辞めた理由は知らないと言われるばかり。

その中で、一番仲が良かったという女の子に、君が病気になっていると知らされました。

どうして僕には言ってくれなかったのですか?

僕の想いを、紗耶香は判っていてくれたのではないのですか?

紗耶香、どうして君は何時も自分から幸福を放棄するんだい?

この一年、僕はずっとそうやって君を責め続けてました。

自分は少しも悪くないと思っていて……

やっと気付いたんです。

僕は、誰よりも君を理解していたと思い上がってました。

僕の気持ちは未来永劫揺るぎ無いものと、傲慢な心で君に接していたんです。

それが、君には寧ろ大きな不安に感じられたのでしょう。

先日、君の親友から聞きました。

今でも定期的に病院へ通っている事を。

そして、その病名も。

大丈夫、絶対に大丈夫だから。

だから、このサボテンに花が咲くのを一緒に見よう。


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