ことばのスケッチ
公園には、既に小学低学年ぐらいの者からカイチぐらいの仲間がわいわいと遊んでいた。ユキは三歳なので、この仲間では中以下である。婆はユキの後を追いかけ、爺はビデオカメラを手にしている。
 砂場での幼児の社会は、親と言う不純物が介在した社会である。傾斜面に設けられた滑り台の社会は、動きが活発で、大人が入り込む隙間はなく、親と言う不純物が入り込まない純粋な社会である。この社会には年齢の区別はなく、強い者と弱い者とがくっきりとしており、かつ、そこにはごく自然にそこそこに理性が働いて、滑り台の自然な流れができている。婆は必死になってユキの後を追いかけるが、流れの三回に一回ぐらいしかユキと対面しない。ビデオカメラのレンズを通してみている爺の視線は、当然のことながらユキから離れない。したがって、婆も爺もユキを野放しにした状態で見守る以外に手がない。
 ユキの胸の辺りまであるコンクリートの壁が、ユキにとって一番の難所らしい。婆は流れから外れてこの難所でユキが来るのを待ち構えている。ローラを敷き詰めた滑り台をガラガラと音を立てながら滑り降りてくる流れの中に、ユキの姿を捉える。あ!来た来た!レンズを引き寄せる。ユキの奴、得意な顔をして!ユキの先を滑ってきた奴が、滑り台の滑降の加速度を利用して、滑り台の終端からポイっと平地に飛び降りて、着地するが早いか走り出し、その勢いでコンクリートの壁にひょいっと飛び上がる。
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