ことばのスケッチ
「早苗!京子さんのところへ連れてってくれないか!」
「いいわよ、行きたいところへ連れてってあげるから」
「四男の所へは、暫く行ってないし、京子さんもいい人だから」
「電話してみるわね」と、早苗は京子さんに電話する。どうやら、今度の日曜日に決まったらしい。当日になって三人は車で出かけた。
「この車、ツードアだから、お母さんは助手席に乗ってね」と言って、早苗は先に後部座席に座る。そして、その後から、母はよっこらしょと、助手席に乗った。私は運転席に乗って、早苗との打ちあわせ通りに、その様子を見ていた。時間はかかるけど、自分でできることは、なるべく自分でやらせるというのが、母と暮らしている二人の間の純粋な気持ちである。
「お母さんね、本当は、ホードアの車だと、後部座席のほうが安全だけど、この車は後部座席に乗るのは大変だし、それに何か事故があったときに、後部座席だと出にくいからね」と、早苗が言う。
「いいんだよ、前のほうが見晴らしがいいし、それに車酔いしないから、久しぶりに会うのが楽しみだよ」
「本当はね、京子さんのほうから招待の電話があればね、気持ちよく行けるんだけど」と、普段一番仲のよい兄嫁ではあるが、招待されない所を見ると、純粋さを包み隠しているのではと、早苗の心を過ぎった。
< 78 / 177 >

この作品をシェア

pagetop