神楽幻想奇話〜荒神の巻〜
彩音についてもそれは言える。

朝になると何故か誰も使ってない部屋を開けて「お兄ちゃんおはよう!」と言ったりする。

俺の事かと思った事もあったが、彩音と出会って以来「沙綺ちゃん」以外の呼び名で呼ばれた記憶は無いのだ。

忍に至ってはこんな調子だろ?
俺も一人で歩いていると、不意に誰かに話しかけようとする時がある。
例えば「おい、これ見てみろよ!って…あれ?俺何言ってんだ?」みたいな感じにな。


何か大切なヒトカケラを見失っている…そんな気分だった。

俺はその日一日かけてそれを必死に思い出そうとしていた。


「思い出そうとすると頭がズキズキしやがる、いったい何なんだ?」


俺は軽く頭を振って立ち上がると、窓から射し込む夕日を見にベランダへ出た。


「いつの間にかこんな時間か…。夕方、夕日…。俺は誰かとこんな時間に出会ったような気がする。グッ!誰だ!?」


俺はひどくなった頭痛に絶えきれずにしゃがみ込んだ。一瞬だがフラッシュバックした誰かの姿に懐かしさを覚えた。


その時、ノックが聞こえてドアが開いた。


「沙綺ちゃんちょっといい?」


それは彩音だった。
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