生徒会長様の憂鬱





「坊ちゃま、こちらです」


運転手が、小さなアパートの前に車を止める。
俺は助手席から後部座席を覗き、サル女が寝ていることと、揺り動かしても目を覚まさない事を確認して車から下りた。


適当に放り込んだ為、制服のスカートから白い太ももが丸見えだ。
思わず眉間にシワが寄ったが、自分が原因である以上何も言えない。



「おい、家着いたぞ」



肩を大袈裟に揺らしてみたが、奴は小さく唸って火照った頬を拭うだけ。
起きろ、と念を押すと気怠そうに体を起こし俺の体に被さるように乗っかった。




――…おぶれってか…。図々しい奴だ




仕方なく、そいつが後ろに倒れないように注意しながら体を回し両手を首から引っ張ってやる。
車に頭をぶつけないように立ち上がれば、寝ぼけているようで素直に俺の体に絡みついた。


普段からは考えられねぇな。



ガサツで乱暴、加えて口の悪い女が他人に甘えるなんて想像もつかない話で、逆に考えればそれ程極限の状態で演劇をやっていたということ。




変な女だ。




初めこそ、媚びない真っ直ぐな瞳を平伏させてやりたいと思う気持ちと、こいつなら生徒会でしっかりやってくれるだろうという期待の半分半分で興味を持った。


しかし今、彼女自身を知りたいと思うようになっていく自分がいる。



からかうと顔を真っ赤にして戸惑う表情とか、何があってもしっかり両足で立つ強さとか、純粋にクラスを思う優しさとか。



「…、ねぇ…」




突然、浮いたような甘い声が耳元を掠った。
ゆったりとした口調は寝ぼけている証拠だが、それでも何故かドキリとした。




「…、カレー食べたい」




カレー?





「…、は?」





彼女は、それっきり黙ってしまった。
いくら声をかけても、何か言う様子はない。


「色気のねー女」




少し腹が立ち、その場で落としてやろうと思ったが、病人なのでやめてやった。

そうして俺は、錆びきった汚いアパートの階段に足をかけたのである。


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