守ってあげたい 〜伝染〜
炎に抱かれて
煙が少しずつ流れ込んできた書斎で拓海は書いたばかりの遺書を手に思わず苦笑いをした。

この炎に包まれた状態でどうやって遺書を残そうと言うのだ。
書いている最中は何も考えずに……真澄に傘で抉られた目の激痛も忘れて一心不乱に書きつづけた。

今まで誰にも言えなかった自分の半生、そして家族への想いと利那への謝罪。

しばらく考えたあげく拓海は諦めて便箋を破りすてた。
まもなく此処も炎に包まれるだろう。
ようやく終わったのだ……これで休める。

思えば父の義光を階段から突き落として殺した時から全ては始まったのかもしれなかった。
酒乱に暴力、家族のためには何にもならない疫病神の父……。

彼を殺す事に何のためらいもなかった。
あったのは貴子と晶を守るという使命感だけだった。はたしてそれが正義なのかどうか10歳の少年には判断出来なかった。

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