守ってあげたい 〜伝染〜
しかし右肩に残る鈍痛と青黒い痣が、昨夜の出来事が事実である事を物語っていた。

(俺は一発顔面を蹴っただけだ。それにあいつは起き上がってきたじゃないか)

言い聞かせるように心の中で叫ぶが、胸の内から沸き起こってくるどす黒い不安がどうしても消えない。俺が殺したかの?……

いくら酔っていたとはいえ、それはありえない。ニュースでは人相が識別出来ないほど顔を殴られていたそうではないか。
自分はたった一度しか危害を加えていない。しかも正当防衛である。

それでも警察に行って事実を話す勇気は無かったし、それどころか晶からの電話さえとる勇気が無かった。

今更ながらに自分がこれほど臆病で肝の小さい人間だったのかと激しい自己嫌悪に陥りながら、雄大は胸の不安をかき消すように手にしたグラスの液体を胃に流し込んだ。


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