母の心音(こころね)
家の庭は、二メートルほどの高さの真木の木で囲われている。家の後ろ側にはお茶畑があり、家の三方を囲むように、季節の野菜などを植える畑がある。この畑を隔てたところに、隣家がある。家の前を走る鉄道から川底に向かった傾斜地に、数枚の棚田がある。この棚田からは、あの滝がよく見える。田畑は、自給自足できる程度の広さである。生活の糧は、杉や檜を植林した山林である。畑を隔てた隣家との間に、小川が流れていて、鉄道の下のトンネルをくぐり、棚田のわきに沿って川に流れ込んでいる。この小川に沿って、川に下りる道があり、この道の傍らに、竹藪がある。家の庭からその竹藪が見える。
四人の兄弟は、四歳づつ離れている。私は次男坊で、兄、姉、私、そして妹である。私が小学校高学年の頃、それはそれは賑やかだった。姉や妹とよく喧嘩もした。夏休みともなれば、近所の友達と一日中、川で遊んだ。川のせせらぎの音、滝の音、子供の声が入り混じっていた。冬休みになれば、茶畑や田畑を駆け回った。
この当時は、終戦間もない頃でもあって、物資や食料が十分ではなかった。兄は、勉強ができクラスで一番であったが、体が弱かった。兄だけが卵や肉を食べ、他の兄弟はそれを見て過ごした。姉はサツマイモで、ケーキを作ってくれたことを覚えている。妹は末っ子で、蝿がとまっただけで痛い痛いと泣いた程に、甘えん坊であった。父も母も一番可愛がっていた。私は体も大きく、頑丈な体をしていた。喧嘩も強かった。あの頃は、うるさいぐらいに賑やかであった。
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