†Orion†


どれだけの時間、優菜さんと抱き合っていたのか分からない。

たぶん、正確に測れば、それはきっと驚くぐらいに短かったと思う。



抱きしめているあいだ、優菜さんは、


「あたしは、雅人くんを……」


と、中途半端なことを二度、口にした。



彼女が最後まで言えなかったのは、俺が言わせなかったから。

言葉で遮っても、彼女は無理やり言ってしまいそうだったから。

俺への気持ちを言葉にしてしまわないよう、唇をふさいだ。


けれど、一度だけタイミングがずれて、俺はとうとう聞いてしまったんだ。



「あたし……、雅人くんを好きに……」



それは、ずっと欲しくて、待ち続けていた言葉だった。


でも、いま俺がその言葉を受け入れてしまったら、きっと崩れてしまう。

世界でたったひとつの、“両親”という大切な存在が。

それを知れば、いちばん傷つくのは奈緒ちゃんとさくらちゃんだ。


< 181 / 359 >

この作品をシェア

pagetop